第11話 : 『因縁』

【体験者:@管理人】 2006/09/17 公開作品


この話は、私が今まで体験してきた中でも最も印象深い体験かもしれません。

話はもう3年前の秋にまで遡ります。
サイトを初めて間もなかった私は、各地の探索に飛び回る毎日を送っていました。

今では諸般の事情を考慮して中止しておりますが、
当時、サイトではお客様を招待しての探索という企画を運営していました。
この話は、そんな中で体験した話です。

東京と神奈川の県境に近い山の中にある城跡公園。
ここの取材を決定し、お客様3名を招待しての取材となりました。

この城跡公園を巡っては様々な噂が流れています。

遠い昔、この城を巡って激しい攻防戦が繰り広げられ、数多くの戦死者が出たのだそうです。
その壮絶な戦いは、阿鼻叫喚の世界そのものの凄まじい地獄絵図だったそうです。
落城の際には城に篭っていた数多くの婦女子が自決の為に滝壷に身を投げ、
川はその血で真っ赤に染まり続けたと伝えられています。

そして現代に伝わる怪奇な噂としては、その落城の日、6月23日には、
この城跡公園一帯から悲しげな叫び声やすすり泣く声が聞こえてくると言われています。

ここは、そのような曰く因縁の深い土地なのだそうです。

宵闇の迫る中、八王子ICを降りた私たちは一路城跡を目指して進みます。
道はどんどん寂しくなり、辺りの景色も闇に溶け初めていました。

向かう道中、小さな出来事がありました。

大きな右カーブを通り抜けた時、少し先の道端の標識の下に猫の姿が見えました。
野良猫のようでした。
うずくまり、ライトに照らし出された目を光らせたままジッと佇んでいます。

何となく気になった私ですが、運転もありましたので目を前に戻しました。

意識はしなかったのですが、目の隅には猫の姿をぼんやりと捉えていました。
猫との距離が段々と近づいてきます。

突然、私の車の前にその猫が飛び出してきたのです。

"キキーッ!"

私は慌ててブレーキをかけ、車を急停車させました。
幸いにも後続の車両は無く、追突事故は避ける事が出来ました。

『危なかった…』

ホッとする私たちを尻目に、猫は車の前に佇んだまま動こうとしません。
それどころか、ただジッと私たちを見据えたままなのです。

私は運転席から降り、その猫を手払いしようとしましたが、
猫は私から視線を外す事もなくジッと私を見据え続けているのです。
何となく薄気味悪いものを感じてきました。

私は更に近づいて手払いをしました。
ようやく猫はノソッと立ち上がり、ゆっくりと去って行きました。

『やれやれ…』

私は運転席に戻り、ハンドルを握り直しました。
ふと前方に目をやると、あの猫が道端にうずくまり、またこちらを見ているのです。
先ほどと同じような姿勢、同じようにジッと私の目を見据えたままで…。

車は走り出しました。
猫の姿は遠く後ろに去って行きました。

やがて、私たちは城跡に続く側道に差し掛かりました。

私はこの現場には何度か足を運んでおりますので道順は心得ています。
勝手知ったるという感じで道を進み、やがて城跡公園の駐車場に到着しました。

車から降り、それぞれ手にペンライトを持ち、取材の準備を始めます。
やがて準備を終えた私たちは、さっそく探索に向かう事としました。

今回は、メインの入口は避け、裏手から入って行きます。

この城跡は、至るところに木製の小さな橋が架けられており、
その橋を渡る度に、より奥へと進んで行くような格好となります。

私たちの目の前に最初の橋が見えてきました。

ものの1分とかからずに橋を渡り切った私たちは、更に奥地へと進んで行きます。
次第に険しさを増してくる道を進んでいると、やがて次の橋が見えてきました。

どこまで行っても同じような景色の繰り返しです。
私たちは、思い思いに写真撮影をしながら取材を進めていきました。

しばらく進んだ頃。

辺り一面に広がる暗闇の中、突如として巨大な橋がその姿を現しました。
心霊写真が取れる、そんな噂が立っている有名な橋です。

今回の取材のメインは、この橋と、その先に広がっている御主殿と呼ばれる広場です。

噂が立つというだけの事はあり、暗闇に浮かび上がるその異様な姿に私たちは圧倒されていました。
橋の袂から一枚、向こう岸に向けて一枚。
そんな感じで、私たちは撮影を続けていきました。

一通りの撮影を済ませたので、次の目的地である御主殿を目指す事とします。

橋を渡って歩き始めました。
渡り終えると、今度は石垣を登るようになっていきます。
歴史を感じる造りの石垣に挟まれた階段を登りつつ先を急ぎます。

やがて、私たちの前に木造の門が姿を現しました。

『これが御主殿の門なんですね』

誰言うともなく、そんな会話を交わしていました。

少しばかりの緊張を感じながら門をくぐります。
しかしそこは、草が伸び放題になっているだけの、ただの広場のようでした。

周囲を見渡してみても特に珍しいというものは何も無く、
何か当てが外れたようになった私たちは、また意味もなく写真撮影を始めました。

"パシャッ、パシャッ"

4人が炊くフラッシュの明かりだけが暗闇を照らし出します。
辺りには乾いた機械音が響き渡ります。

"パシャッ、パシャッ"

そうしていながらどのくらい経っていたでしょうか。

"パシャッ、パシャッ"

その時です…。

4人が同じ方向に向かって一斉にフラッシュを炊いた場面で異変は起こりました。
一瞬まぶしいほどに照らし出された暗闇の中で、私たちの目の前に人の姿がはっきりと浮き上がったのです!

その姿は、私は今でも忘れる事が出来ません。

能面のような白い頬、朱で染め抜いたように真っ赤な唇。
その唇は左右に大きく開かれ、まるで微笑んでいるかのようでした。
頭には登山帽のようなものを被り、まるで顔を覆い隠すかのようです。
両手にはビニール袋のようなものをぶら提げ、
その両手は思い切り突っ張った感じで伸ばしているのです。

本当に一瞬の出来事でしたが、何故かその姿をはっきりと記憶しているのです。

『!!』

私たちは飛び上がるほどに驚きました。

怖いとかそういった感覚ではないのです。
今、目の前で見えたものが何なのか、何が何だか解らない、と言えば正しいでしょうか。
軽いパニック状態を起こした事は間違いありません。

とっさに誰かがペンライトで周囲を照らし出しました。
私も続きました。
途端に、辺り一面がパァッと明るくなりました。
しかし、そこには人の姿など影も形もありませんでした…。

『今、確かに人が立っていましたよね…』

4人共、全く同じものを見ていたのです。
決して錯覚などではなかったのです…。

段々と恐怖心が沸き起こってきました。

4人でカメラを持ち寄り、今撮った写真を確認しようという話になりました。

辺りは再び漆黒の闇と化しています。
恐る恐るカメラを持ち寄り、4人で画像を確認しました。

そこには…。

4台のカメラ、全てに全く同じ画像が写っていたのです。

まるでスポイトから赤黒い液体を飛ばし、それがレンズに貼り付いたような感じで、
得体の知れない何とも薄気味悪い画像なんです。

しかも、偶然撮ったはずの4人の写真が、何故か全て同じに写っているのです…。

『…』

誰もが声を失いました。

そもそも、この城跡で噂されているのは、大昔の霊体の存在であったはずです。
しかし、今私たちが遭遇したのは、どうみても"現代の人間の姿"だったのです。
それも一瞬でありながら、薄気味悪く微笑んだような顔がはっきりと見えたのです。
更に、液晶モニターに写り込んだ無数の薄気味悪い血のような斑点…。

全てが意味不明、理解不可能な状況でした。

恐怖を感じた私たちは転げるようにして階段を駆け下り、一目散に車に逃げ帰りました。
車まで戻った時には、少しは落ち着きを取り戻していました。

しかし、改めて画像を確認するような勇気も無く、私たちは無言のまま城跡を後にしました。

車は八王子ICから高速に乗りました。
行き交う車に挟まれて、また何の変哲もない日常の風景に戻っていきます。

誰かがようやく口を開きました。

『自分ら…大丈夫ですよね…何も起きませんよね…』

誰も応じる人は居ませんでした。

皆、同じ事を思っていたと思います。
思っていながら口に出すのが怖かったのだと思います。

私もそうでした。

"見てはいけないものを見てしまった…"

そういった感覚が体に纏わりついていて、
それを口に出してしまうと何か恐ろしいものを呼び寄せてしまう、そんな感覚だったのを覚えています。

何かに魅入られたような感覚で、得体の知れない不安感に襲われ、

"もしかしたら命を取られるかもしれない…"

そんな焦りをどうする事も出来ませんでした。

都内まで戻り、ほどなく解散となりました。

帰路、何事もなく無事に家に帰り着きました。
同行頂いたお客様からも、皆無事に帰宅されたとの連絡を頂きました。

あれから3年…。

果たしてあれが何だったのか、今もって私には解らないままです。
もしかしたら、あの時、あの場所に本当に"この世の人"が居たのかもしれません。
しかし、前後の出来事の脈絡、これを考えると決して偶然とは思えないのです。

私は今後、二度とこの地を訪れるつもりはありません。
むしろ、この現場だけは心底怖いので近づけないというのが正直なところです。

かつて、有名な霊能者でさえも頑なに進入を拒み続けたというこの城跡公園。

あの日あの時、私たちが遭遇した世にも恐ろしい出来事…。
それは、この土地の祟りが呼び起こした何かの因縁なのかもしれません…。