第13話 : 『笑い声』

【体験者:@管理人】 2010/07/24 公開作品


私は以前、現在と同じ市内の違うマンションに住んでいました。
8畳1Kのワンルームマンションです。

この話は、そのマンションでの体験です。

ある日、私は仕事が夜中まで掛かってしまい、終電を逃してしまいました。
仕方なく、私はタクシーで帰宅する事としました。

タクシーに揺られておよそ一時間、ようやく自宅に帰り着いた私は既に疲労もピークの状態で、
風呂に入る事も止めて直ぐにベットに潜り込みました。
全く意識もないまま、直ぐに眠りについてしまったようです。

その日は夏の暑い日で、夜半を過ぎても地熱が凄い熱帯夜でした。

冷房を節約して窓を開けて寝ていた私ですが、余りの寝苦しさでふと目が覚めました。
ベットの横では薄手のレースのカーテンがゆらゆらと揺れています。

『シャワーでも浴びてサッパリするかな』

そんな独り言を呟きながら、そのまま起き上がりカーテンを閉めて施錠をし、浴室に向かいました。
適当に着替えを見繕って洗濯機の上に放り投げ、服を脱いで浴室に入ります。
いつもの癖なのでしょうか、内側から鍵を掛け気持ち良くシャワーを浴びていたのです。

不意に誰かの気配を感じました。

人間というものは不思議なもので、人が足音を忍ばせて真後ろに来てもそれとなく気配で感じるようです。
まさにあの感覚です。

浴室のドアはすりガラスになっており、向こうの景色は見えません。
しかし、何か違和感を感じました。

すりガラスの向こうには、いつも見える床敷きではなく何かの物体が蠢く姿が写り込んでいるのです。

それが段々と、いや、人間が動くような速度で近づいてきてこちらに迫ってくるのです。

慌てた、というより瞬間的に"泥棒"だと思いました。

『おいっ!何だ!誰だっ!』

恐怖心のあまり、思わず私は大声を出していました。
でもその物体のようなものはそのままの速度で近づいてくるのです。

『うわー!』

叫びながら私はすりガラスを力任せに開け放ちました。

バンッ!

勢いよく開いたドアでしたが…その向こうに居るはずの物体など、どこを見ても居ないのです。
今、この瞬間まですりガラス越しにハッキリと見えていた物体の姿が忽然と姿を消しているのです。
刹那、

『あはははは、んんん、ははは、あははは…』

こんな感じだったと記憶しています。

さっきまで私が居た居間の方からハッキリとした何人かの笑い声が聞こえてきたのです。

腰が抜けそうになるのを必死に堪え、魅入られたように私は居間に駆け込みました。

そこには誰も居ませんでした。

しかし、さっき施錠したはずの窓が全て開いていたのです。

これは物理的に有り得ない事です。
唖然とした私は、ただただその場に硬直してしまいました。

一睡も出来ないまま夜が明けました。

後日、私はこのマンションのはす向かいにある空き地にはかつて家が建っていて一家が住んでおり、
そこで大学生の三男が服毒自殺を図って亡くなったらしいという風聞を耳にしました。
自分で見聞きした訳ではないので真偽のほどは解りません。

その後、一家は家を引き払い、何処かへ越していったとの事です。

とはいえ、私の住んでいたマンションと何の因果があるのかは解りません。
そしてあの笑い声、しかも複数人の笑い声の因果など知る由もありません。

結局、そのマンションではその体験をした一夜以外には何も起こりませんでした。

あの夜、起きた事はいったい何だったのでしょうか。