第4話 : 『憑いてくる』

【体験者:@管理人】 2003/11/27 公開作品


そこは、かつて陰惨な殺人事件の舞台となった現場でした。
しかし、私はその時それを知りませんでした。
その後に恐怖が待っていた事も…。

2003年の暮れも押し迫った頃、私はいつものように取材に出掛けていました。

やがて私は茨城県にある峠に到着しました。

近くにあった神社を適当に撮影しながら歩を進め、辺りの様子をカメラに収めていると、
そろそろ夜の帳が迫り来る時間になっていました。

『そろそろ帰るかな』

頃合いを見て私は車に戻り、機材を片付けてから運転席に乗り込みました。
この頃には辺りは真っ暗になっていました。

ハンドルを握り、暗い山道を駆け下りて行きます。
右に左にカーブを切りながら、ものの10分も進んだ頃。

前方にボロボロに朽ち果てた物置小屋のようなものが見えてきました。

こういうサイトを運営している者の習性なのでしょう。
目につくものはとりあえずカメラに収めるという習慣が私にはあったのです。

車を停め、いそいそと機材を運び出して私は撮影の準備を始めました。
懐中電灯と車のライトだけを頼りに私は作業を進めたのです。

道路から外れて草むらに分け入り、目的の物置小屋に近づいていきます。

ボロボロに朽ち果てた建物を目にするのは、やはり気持ちの良いものではありません。
多少の恐怖感を感じながらも私は撮影を続けました。

そうこうするうちに撮影も済み、私はカメラチェックの為に車へと戻ったのです。
車の室内灯をつけ、カメラのチェックを始めます。

『まぁまぁの仕上がりかな』

全部見るのは枚数が膨大過ぎるので途中で止め、一人納得して車を出発させる為に室内灯を消しました。

消した時、私の目に飛び込んできたものがありました。

運転席の窓の外に、こちらを見つめてジッと立っている男の姿があったのです。

『えっ!?』

私は一瞬、ギョッとしました。

それは若い男でした。
青いネクタイをして、スポーツ刈りのように短く髪を刈り込んだ若い男でした。

『ここは霧が深くなりますよ…早く行った方が良い…』

確か、そんな事を言ったように思います。

見れば、真っ暗な夜空からポツリポツリと小雨が降ってきました。

『え?あ、はい、済みません。もう帰ります、済みません』

私はそう言い残し、その場を立ち去る事にしたのです。

後から考えてみればおかしな事なのです。

車はおろか人の往来もない旧道の峠。
そんなところに、あの男はどうやって来たのか…。

しかし、この時は特にそうは思わなかったのです。

思いもかけないタイミングで人に遭遇した事で軽くパニックを起こしたと言えば正しいのかもしれません。

改めて車で麓を目指し始めてしばらくたった頃、ようやくおかしいと思い始めたのです。
行きも帰りも車なんか一台もすれ違っていないのですから…。

正直、やってしまったという怖さもありました。
しかし、一人で心細い思いを抱えながらも私は好奇心が先に立ってしまったのです。

今来た道をそのまま戻って行く事にしました。
あの男の正体を確かめに…。

やがて、先ほどの地点まで戻ってきました。

そこには、誰一人居ませんでした。

『まぁ良いか…』

何かの偶然が重なっただけなのかもしれません。
あえてあまり深くは考えないようにし、私は改めて帰路につく事としたのです。

麓まで降りきり、やがて市街地へと辿り着きました。

街中の明るい光に照らされて居並ぶ店の姿が目に飛び込んできます。
空きっ腹を抱えた私はその中の一軒のファミレスに入りました。

喫煙者である私はカウンターに案内されます。

適当な注文を済ませ、タバコを吹かしながら食事が運ばれてくるのを待ちます。
時間を持て余す格好となったので、私は残りの写真チェックを始めました。

何枚か見ていくうちに私は気になる写真を見つけました。

その写真は物置小屋の横壁を写した写真なのです。
よく見ていると、その壁から何かが突き出しているように見えるのです。

改めて目を凝らして見直してみました。

白く固まったような人間の腕のようなもの…。

『…』

驚きながらよく見てみると、その腕のようなものからは後ろの林が僅かに透けて見えているのです。

『…』

声を失っている私の元に食事が運ばれてきました。

"何かの写り込みに違いない…"

努めてそう思う事とし、私は食事を進めました。
もちろん、写真のチェックは止めにしてカメラはカバンにしまい込みました。

そのとき…。

私は背後からの凄まじい視線を感じたのです。

まるで私の背中を突き通すかのような凄まじい気配なんです。

『…』

何とも言えないような言い知れぬ不安と脂汗が滴り落ちるような恐怖を感じます。
私は思い切って振り返ってみる事にしました。

私の視線の先に初老の男性が居ました。

その初老の男性は、まるで何かに魅入られたかのように私を凝視しているんです。
目をランランと見開き、瞬き一つせずに私を凝視しているんです。

全身が総毛立つ…この時の私はまさにそんな状態にありました。

薄気味悪くなった私はすぐに向き直り、直ぐに食事を済ませて店を後にしました。
気が付くと、その男性も店を後にし車に乗り込むところです。
逃げるように店を出て車で走っているうちに、ある事に気付きました。
それは、ずっと付いて来る一台の車がある事でした。

先ほどの初老の男性でした…。

私の家までの距離は、ここから100キロ以上も離れたところです。
でも、その車は延々と私の後を付いて来るのです。

『何なんだよ…』

そのうち、いつのまにかその車の姿は消えていました。

いつもの慣れた道に戻り、私は無事に家に帰り着く事が出来ました。

先ほど中断していた写真チェックを再開する為にデジカメを取り出します。

物置小屋の全景、横壁から突き出た人間の腕のようなもの…。
気味悪さを感じながらも写真チェックを進めていた私の目に、ある写真が飛び込んできました。

それは…。

腕のようなものの先にくっついた人間の顔のようなものでした。

紫色のような赤いような妙な色合いで、何とはなしに目・鼻・口に見えるのです。

輪郭がはっきりしない人形のような感じなのです。

あまりの事に、さすがに私は絶叫にも近い叫び声をあげていました。
思わずカメラを放り投げるように手放し、その場に固まってしまったのです。

しばらく経って恐る恐るカメラを手に取り直してみました。

画像に目をやると…。

その画像はさっきと同じように写し出されています。

『…』

目が慣れてきた事もあり、私はその顔のようなものをもう一度確認してみました。

『…そんな…』

その顔は、あのファミレスで私を凝視していた初老の男性のようにも見えるんです。
もちろん違うようにも見えます、ただのシミのようにも。

でも私には、あの初老の男性のように見えて仕方がないのです。

『何で…』

前後の関係が解らない私は、ただ唖然とする事しか出来ませんでした。
何かにとり憑かれたのではないのか…。
そんな漠然とした不安が私の胸を駆け巡っていきました。

某サイトに掲載されていた情報により、後になって知った事なのですが、
この峠では昔殺人死体遺棄事件があったようなのです。

被害者は中年に差し掛かった男性だったそうです。

物置小屋と死体遺棄との関係は解りません。
その小屋が事件に関係しているのかどうかすら公表されていないので何も解りません。

おそらく違うと思います。

しかし、この峠は地元の人ですら嫌がって近づかない場所なのだとか。

そして何より、初老の男性は何故私を見つめていたのか…。
あの時、峠で私に声を掛けてきた若い男はいったい何者だったのか…。

写真は処分して良いものかどうかの判断が私にはつかず、今もそのまま保管しています。
今後も公開する事はない写真としてお蔵入りせざるを得ないと思っています。

小雨が降りしきる夜に起こった怪奇な出来事。

あれから幾つもの季節が過ぎましたが、私の身の上には未だ何も起こってはいません。

しかし私は思うのです。

私に何かを伝えたかったあの2人は、まだ私の傍に居て私の事を呼んでいるのではないか、と。