第5話 : 『残された靴』

【体験者:@管理人】 2003/12/20 公開作品


私がまだ前職に就いていた時の話です。

当時私は都内某所の店舗勤務でした。
夏に転属したばかりで、慣れない環境に四苦八苦する毎日でした。

ガス抜きの意味もあったのでしょう。店のアルバイト君たちが私の歓迎会を企画してくれました。
当時アルバイト君たちの間では怖い話や心霊スポットにまつわる話が盛り上がっており、
私もそういう類の話は大好きでしたので、ならばという事で心霊ツアー企画という運びとなりました。

場所は、当時少し騒がれていた、神奈川県内の湖に架かる、とある橋です。
総勢8名、深夜11時出発、車2台分乗という事で話はまとまりました。

思ったよりも早く神奈川県内に入ってしまったので途中ファミレスで食事する事にしました。
皆んなでその橋にまつわる話をしているうちに段々ヤバイんじゃないか?となり…。
でも来た以上はとりあえず行ってみようという事で皆んなでファミレスを後にしました。

現場の橋に着いたのは深夜1時30分頃だったと思います。
2台の車を橋のたもとに置き、8人で連なって反対側まで歩いてみる事にしたのです。

見た目では何て事はないただの大きな橋です。
薄暗くはありますが、明かりも灯いているので、さほどの恐怖心はありませんでした。

ただ、ここは飛び降り自殺の名所で、落下防止の金網が高い位置まで設置されているのですが、
その金網の至るところが引き剥がされたように破れているのです。
そして、欄干の至るところには何かで彫ったような跡でこんな書き捨てがありました。

"お父さん、お母さん、ごめんなさい。皆んなごめんね。さようなら…。"

『おい、これ遺書じゃねぇの…?』

『…・・』

その文面からは、とても誰かがイタズラ半分で捏造したとは思えないような情念が伝わってきました。

噂には聞いていましたが、現実にそういう光景を目の当たりにして私たちは皆んな言葉を失ってしまい、
もう帰ったほうが良いだろうという事で皆んなで車に戻る事にしました。

車まで引き返すと、さっき駐車した時には誰も気付かなかったような廃車がひっそりとありました。

しかも、車全体が丸焦げになっていて、なぜか助手席のドアだけが全開になっている状態で…。
その光景を見て、とてつもなくイヤな想像が頭をよぎりました。

『心中…?』

皆んなもう、この場の異様な雰囲気を充分感じ始めていて一刻も早く退散しようという事になって。
すぐに8人全員で2台の車に分乗しました。私は後続車のハンドルを握りました。

急いで橋を後にして、ものの500メートルも走った頃でしょうか…。
突然、私の車の屋根に『ドンッ』という凄まじい衝撃があり、ビックリして急停車しました。

『何だ!?何か落っこってきたか!?』

前の車の連中に連絡を取り、2台とも停車して降りて屋根を確認しました。

いくら見ても、何もぶつかった跡なんかありません。
よく解らないけど、まぁ良いかと再び車に乗り込もうとしたその時…。

『ねぇ〜…ぇ…ねぇ…ねぇ…』

『!!!!!!』

『何だ今の声!?』

『……』

その声のようなものが聞こえたのはほんの一瞬です。

『誰かいるんじゃねぇのか…?』

生身の人間が実際に居たほうが却って安心という妙な気持ちもあり、私たちは声がした方を探す事にしました。

明かりがなかったので、私が懐中電灯を車のトランクから取って来る事になりました。
ズボンに結び付けていたキーでトランクを開け中を見渡したその時です!!

全く見覚えのない、わけの解らない子供の靴がびしょ濡れになってトランクの中にあったのです!!
一瞬、何があるのかさえ全く把握出来ませんでした。

理解出来ないまま、

『これ誰のだ?』

などと皆んなに聞いても誰も知らないと…。
すると、またかすかにあの声が聞こえてきたのです!

『ねぇ〜…ぇ…ねぇ…ねぇ…』

皆んな、今目の前で起こっている事態が理解出来ずにパニック寸前になって車に飛び乗りすぐに逃げました。

落ち着く為に再度ファミレスに寄り、明るいところに車を寄せトランクを開けてみると…。

まるで何事もなかったかのように、さも当たり前のように歴然として靴はそこにあるのです。

『何なんだ、この靴…』

夢でも何でもありません。
なぜなら、私たちの目の前にその靴はあるのですから…。

『あの焼け焦げた廃車と何か関係あんのかな…』

誰かがそう言いました。そうです、私もそれを考えていたのです。

勝手な想像ですがあの車で何かがあって、もしや助手席から女性と子供は逃げようとしたんじゃないか?
でも、逃げれなくて焼け死んでしまったんじゃないかって…。そう考えてました。

焼け死んだ親子が何かのメッセージを伝えたくて私たちに声を掛けてきたんじゃないか、今はそう思っています。

ちなみに、この橋は今でも現役で通行可能な橋です。

あくまでも私の想像に過ぎませんが、これが事実なら同じような悲劇が繰り返されない事を祈るばかりです。