第6話 : 『蘇る記憶』

【体験者:@管理人】 2004/02/08 公開作品


リアルに怖い体験をした話です。

皆さんの記憶には、小さい時に怖い映像を見たとか、そういう記憶はありますか?
遥か彼方に葬り去られたようなわずかな記憶でも、映像で見ていると、どこかにその記憶って残っているものです。

私は、中学生くらいの頃からテレビ番組で心霊特集をよく見ていました。
中でも再現ドラマ系が一番怖かった事を覚えています。

トンネルの壁から伸びる白い手、洗面所の鏡に映っている、自分の背後に立つ血だらけの女…。
数え上げたらキリがないくらいに怖い映像はたくさん見てきました。

そういう映像の記憶がどこかに残っていたのでしょうか…。

時は経ち、私は大学生になりました。

実家から通っていた事もあり、毎日毎日平凡な日々。
ごくありふれた日常を送っていました。

そんなある日の事。

家族全員が用事で出払っていて、私一人が留守番という日がありました。

その日は私も夜から友達と遊ぶ約束が入っており、それまで時間を潰す必要がありました。

特に何をする訳でもなく、私はヒマを持て余しながら読書をしたり昼寝をしたりしながら過ごしていました。
時刻は夕方、遠くで子供たちが遊びまわる声がかすかに聞こえてきていました。

『カタン…カタン…』

小さな音の響きが静寂を破りました。

台所で食器か何かが転がったような音です。
私は何もする事もなかったので、何とはなしに様子を伺いに台所へ向かいました。

『そうだ、ヒマつぶしついでに食器洗いでもするかな』

台所は、廊下を突き当たった先にあります。

台所に着いた私が見た光景は、整然と整理された食器類でした。
おそらく母が出掛ける前にキチンと整理整頓して行ったのでしょう。

『あれ?おかしいな…』

不思議に思いながらも、私は部屋へと戻る事にしたんです。
部屋へ戻った私は、またさっきのように読書をしたりウトウトしたりしていました。

『カタン…カタン…』

再び台所から音は聞こえてきました。

『あれ?食器じゃなかったのかな?窓でも開いてたかな?』

私は台所へ様子を伺いに行ってみました。
ところが、窓なんか全然開いていないのです。
何者かが何かを触れたりしていじらなければ、音などが発生する要因は無いのです。

嫌な予感がしてきました。

そういう思いに囚われ始めたからでもあるのでしょうが、台所の辺りがやけに薄気味悪く見えてきました。

私は何とも言えないような気味悪さを感じながら、部屋へ戻る為に廊下へ出ました。
廊下の真ん中には洗面所があり、そこは引き戸のような形のドアがあります。
そこを通りかかった時、ドアはわずかに開いていて、その隙間から洗面所の鏡が見えたのです。

その鏡の前には、灰色の服を着た髪の長い女の人が立っていました…。

『えっ!?』

そう思った次の瞬間には、その女の人はもう消えて居なくなっていました。

『…』

目の錯覚です。

怖い怖いと思うからこそ、何でもないモノが人のように見えてしまったんだと思います。
かと言って確かめに洗面所へ入る勇気も持てず、私は部屋へ戻りました。

相変わらず、外からは遊びまわる子供たちの声が聞こえてきます。
何の変哲もない日常の夕方です。

私は努めて気にしないようにしながら、出掛ける準備を始めました。

今、この家の中には自分一人しか居ない…。

普通に暮らしていれば当たり前によくある事なのに、この時はそれがとても怖かったのです。
手早く身支度を整えた私は、洗面所を見ないようにして玄関へ向かいました。

本当は自分の部屋から一歩出るだけでも怖かったのですが、約束があるので、そうしているわけにもいきません。
玄関に着いて靴を履き、急いで玄関のドアを開けました。

早く人の居るトコロに行きたかったというのが、その時の気持ちだったと思います。
ドアを開け、玄関の鍵を締めようとして振り返った私の目に、あるモノが映りました。

明かりを消した灰暗い玄関の様子が、閉まりかけたドアの隙間からわずかに見えました。

そこには…。

さっき、洗面所で見た、灰色の服を着た髪の長い女性らしき輪郭が見えたのです…。
両腕を前に突き出して、手をヒラヒラさせながらそこに佇んでいるように見えたのです…。

『!!』

私は恐怖のあまり、声を失いました。

その後、ほんのまばたきをした一瞬だったと思います。
その女性のような姿は、影も形も消え去りました…。

しばらく唖然としていた私の耳に、元気に遊びまわる子供の声が遠くから聞こえてきます。
何の変哲もない日常の夕方なんです…。

『今のは何だったんだ…』

それから月日は流れました。

しばらくの間その家には住んでいましたが、同じような体験は二度としませんでした。

結局、あの女の人の正体が何だったのかは解らないままです。

私が思うに、たまたま色々な偶然が重なって、それを自ら怖い方へ怖い方へと解釈していったのだと思います。
台所で妙な物音がした事、しかし、家の中には自分一人しか居なかった事、夕方で薄暗かった事…。

そういった様々な要因が私の想像力をたくましくさせていき、
それが意識の底に眠ったはずの怖い記憶とリンクして、恐ろしい幻を見させたのだ、と。
遥か昔にどこかで見たような女の人の姿。

再現ドラマの恐怖で私の記憶の奥底にこびりついたその姿が、
時を越え私の想像の産物として目の前に現れた…。

今では、あの女の人も、間違えなく錯覚だっと確信しています。

でも…また何かのタイミングで、あの幻を見てしまうのではないかと密かに畏れているのも事実です。
皆さんは…はるか昔に、意識の外に封印したはずの怖い記憶に心当たりはありませんか…。